暗黒時代は玉虫色

  • 2017.07.08 Saturday
  • 08:15


ニュースで産後うつの話題を見て、産後の1ヶ月が地獄のように辛かったことを思い出した。そして、日が経つにつれてその地獄のように辛い記憶がどんどん朧げになっていることに気づいた。当時はものすごく辛く、むしろ辛さしかなかったはずなのに、喉元過ぎれば人は熱さを忘れるものだ。

というわけで記憶が更に薄れてしまう前に、何がどう辛かったのかを書き残しておこうと思う。


そもそも出産時に1.5リットルの大量出血をしたせいで、私は産後の肥立ちとやらが悪かった。入院中は廊下も手すりを伝わないと歩けないほどフラフラで、退院後も布団から出るともれなく目の前が暗転する状態が続いた。

体調が悪ければそれだけで辛いのに、昼夜問わず2時間ごとに乳をやらねばならぬ。家事全般や、おむつ替え、沐浴などは義母や夫に任せられるが、授乳だけはそうもいかない。夜中に隣で泣き出す声に起こされ朦朧と30分近く授乳。しかも乳首はまだ弱くてあっという間に腫れあがり、吸われるたびに体がよじれるくらい痛い。出産時の切開の傷跡もこれまた痛くて座ると激痛が走る。満身創痍とはまさにこのことである。動かないから筋力も落ちる。ぐっすり眠れないから気力も落ちる。恐怖の悪循環だ。


新生児は笑わない。人間というより生物で、ぶっちゃけちっとも可愛くはない(今となっては新生児を見ると可愛いく思えてしまうこの不思議よ)。赤ちゃんは泣くのが仕事というがそのとおりで、泣くか寝るかしかない。とにかく最初の1か月はよく泣いた。お腹が減れば泣き、おしっこをすれば泣き、更にはおむつが綺麗でお腹がいっぱいで抱っこまでしてるというのに泣き止まないこともある。特に夜半のそれは堪える。最初のうちはあやしたり歌を歌ったりするが、すぐに打つ手はなくなり、暗い中ぎゃん泣きする子を抱え、ただ揺らすことしかできない。そのまま次の授乳に突入なんてこともあるある。今にして思えば、こちらの不安が子供に移っていた面も多分にありそうだが、当時はそんなの知ったこっちゃない。


24時間、自分より優先しなければならない誰かに暮らしを左右されるのがまた辛い。子供が寝たら何かするよりまず自分も寝たいわけだが、そうすると本当に何もできず、どんどん世間と隔絶されていく。普通に外に出て子供と離れられる夫が羨ましくて仕方ない。だけど子供を義母に預けて外に出る勇気も元気もない。

初めての連続なので、些細なことも気になって仕方ない。泣き止まないといっては凹み、湿疹が出たといっては騒ぎ、6時間寝続けたといっては心配し、母乳やミルクが足りているのかで気を揉み、その度に子育て先輩の友達に連絡してなだめられ。なまじきちんとやりたい性分だと、やらねばという気持ちだけが先行してどんどん追い込まれる。自分の今までの人生経験がまったくもって役に立たないことで、自分に対する自信もすっかり失ってしまう。

3週間ほど保育士でもある義母が泊まり込みであらゆることを手伝ってくれていたが、それだけに彼女が帰ってしまった後どうやって家事と子育てを回せばいいのか不安で不安で、気づいたら泣いていることもたまにあった。


当たり前だが子育てはすぐに結果の出ることではない。どれほど精力を注いで頑張ったところで今いまは何の手応えもない。そう、この手応えのなさがまた堪えるのだ。仕事みたいに手際よくちゃっちゃと終わらせていきたいのに。

今までの人生で辛かったことのほとんどは、「そのうち必ず終わるのだ」と言い聞かせて乗り越えてきた。しかし子育てには当分終わりがやってこない。ではどうやって乗り越えたらいいのだ。どうやって。どうやって。そう考えているうちに思考がフリーズする。その繰り返し。暗転。

最初の1ヶ月にはそんなこんなで多種多様な辛さがてんこ盛り。どうやって乗り切れたのか、今だに不思議でしかたないほどだ。


さてしかし。2か月を過ぎ、3か月を過ぎると、子供が泣く理由もわかってくる。こちらに余裕ができることで相手も落ち着いてくるし、何かをしてあげれば相応の反応もある。まったく新しい生活の中で、楽しみを見つけることもできてくる。そうこうしているうちに息子は無事生後7か月を迎えた。最近は素直にかわいいなと思えるようになり、ホッとしている。そして、そんな子供と接しているうち、あの辛く苦しい1か月の記憶は彼方へと遠のいていくのである。


自分が生きる上で、あるいは働く上で、何を大事にしているか、何に喜びを見出すか、というようなことが、子供が出現したことで浮き彫りになったように思う。その点においても、子供とはなかなか意義深い存在だ。

この感じを、あの1ヶ月なしで体験できたらどれほどいいだろうが、まぁそうはいかない。あれあってのこれだ。であればせめて、世の中の産後1ヶ月の母たちが少しでも楽になる方法が、どんどん増えていくことを祈るばかり。もちろん、私もできることはしたい。心からそう思う次第であります。
コメント
切開の傷跡と言いう意味はやっぱり帝王切開したことだった?かわいそうなこよみさん!
  • Pete Zaitcev
  • 2017/07/08 9:23 AM
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